生きてればいつか


刀を作っての段の二次創作

一つ山を越えたところで城同士の小競り合いがあったという。修行がてらアルバイトしている船着き場で船乗りの連中が話していた。それを聞くなりすぐに牧之介は野を越え谷を下り、傷跡が生々しく残る河原にひとりやってきた。山犬の遠吠えが夜闇にこだましている。

昨日、愛刀の牧之介丸が見事に真っ二つになった。腹が減って思いのままに振り回した矢先に木に刺さってぽきりといったんだ。近いうち新左ヱ門に一泡吹かせてやろうかと思っていたのに。これでは天下の剣豪もかたなしだ。

饐えた匂いが立ち込める戦場跡を牧之介は当てもなく歩き回る。先の都のお家騒動から始まったいくさは収まることなく飛び火して太平の世は遥か、遠い。

満月のおり真夜中なのにあたりがよく見渡せる。生者はおろか焼け跡の煙すらあまり見当たらない。山の中の砦だ、おそらく生きていた者は皆引き上げたのだろう。
今のところ動くものはおれの影と飛び回る蛆くらいだ。あいにく根無し草の無宿者。着物に銭、褌まで、獲れるものならなんでも持っていく。金になりそうな着物を見繕っては大きな風呂敷に放り込んだ。刀こそ見つからなかったが、今回はまあまあの実入りだ。奇天烈な南蛮の衣装まである。たとえつぎはぎだらけのぼろきれだって、くたばった持ち主と養分になるよりはいい。おれが使ってやるほうが浮かばれるだろう。

まあ、これ道端のゴザで全部売ってもなまくら一振りになるかどうか。それにつけてもよく切れる鋼は貴重なのだ。

風呂敷を背負ってえっちらおっちら歩いていると乱きりしんが大きな鍋を運んでいた。あとを尾けるとやっぱり行き先は鍛冶屋。いいことを思いついた。あいつらをちょちょいっとおどかして店主のおっちゃんに刀を鍛えてもらおう。 もちろん世をはばかる身、カワユイ変装して現れてやる。伊賀仕込みの変装百変化。

それにしても乱きりしんのあいつら、なんだかつれない。剣豪を目にしてあいつら照れてやんの。ああそうか、刀の折れた手負いのおれを見て怖じ気づいているんだなッ。

鋼のかたまりをはした金で買って、何度も鍛えてを繰り返したらなんだか見たことのない刀ができた。
短くて真ん中に穴がいくつか空いてるやつだ。閃いた。
街中で大根を切ってみた。予想通りのサクサクな切れ具合。人だかりが一気に押し合いへし合いになった。銭が面白いくらいに置いといたガラクタの壺に吸い込まれていく。くっつかない包丁たあ斬新な思い付きだろう。こういうのって町のおばちゃん達にウケるんだよな。そば屋でバイトしてるときに思いついてれば楽できたのになぁ。

誰もいないのをいいことにねぐらにしている炭焼き小屋に戻って一息ついた。すっかり重くなった壺をひっくり返す。包丁を売った金を数えたら結構な金額になった。 それこそ刀くらいなら売ってもらえるくらいはある。 案外おれは客商売のほうが性に合っているのかもわからん。天下のあきんどは仮の姿、ひとたび寝返れば向かうところ敵なしの剣豪……ってのも悪くないかも?それこそ忍者みたいだ。

すっかり膨れた腹をさすりながら牧之介は目をつむった。峠の団子屋は全メニュー旨かった。
今夜は珍しくぐっすり眠れそうだ。

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