こたつ
今年もダメ人間製造機がやってきた
秋の虫の声も日を追う事にまばらになってきた。朝からどうもぐずぐずとした天気だったからだろうか、夕方だと言うのに底冷えがするような具合だ。
突然、ドンドン、とドアを叩く音が聞こえた。夕飯どきに電話もかけず押しかけてくるのはあいつしかいないだろう。
「ああ牧之介か……チェーンは掛かってないだろ?」
「戸部ちゃん久しぶり!私忙しくてな、半月ぶりくらいか?」
どたばたと居間にやってきた牧之介を見ると驚いた。開いた口が塞がらない。季節外れの半袖半ズボンはまるで近所のやんちゃ小僧の出で立ちだ。外は余程寒かったのだろう、心なしか鼻が赤くなっていた。
「どんな格好しとるんだ、全く……」
はっくしょん、と大きなくしゃみで代わりに返事する牧之介。
「お前、とんでもない神経してるな、それで平気だなんて」
「あ、朝すぐは寒いと思ったんだ、今日は特に……でも冬物を出すのメンドくさくて、そのまま」
「阿呆なのか、もう十一月だぞ……どうせなら出すか、こたつ?」
「やったあ!ウチには無いからな、半年ぶりのお目見えだ」
牧之介はよっこいしょ、と押し入れから布団を引っ張り出してきた。私は普段はテーブルになっている電気こたつの枠にかぶせる。
「ん?電源のコード、どこいった?」
「去年押し入れの大きいダンボールにしまっておいたはず……だが?そこは見たか?」
「えっ、そんな箱どこにもないぞ!」
「そんなこと……はっ、衣替えのとき」
「捨てたんじゃないか!うぐぐぐ…せっかくのコタツ、そんなああ……」
「すまん、明日買ってくるか……冷えるならココアでも飲むか?」
「え、コーヒーじゃなくて?新左ヱ門のくせに珍しいな……お前ココア飲むのか」
「昨日スーパーで特売していてな、つい」
「前私がムダ使いしたって怒ったくせに……まあ飲むけど」
「やけどするなよ」
来客用の青い湯のみを取り出した(すっかり牧之介専用になってしまった湯のみである)台所の隅にでんと鎮座した電気ケトルからお湯を注ぐ。
「おわわわ、湯気!!」
「スプーンで二杯までにしとけよ、苦いぞ」
「クリープ入れるから大丈夫だって」
私も作ろうとスプーンを受け取る。山盛りにしたココアの素を零すとお湯の中にゆっくりと沈んでいった。すぐにカカオの匂いが柔らかく立ちのぼる。
「あ、まだあち!」
居間では一足先に牧之介がこたつで脚を伸ばしていた。去年舌を火傷してすっかり懲りたのだろう、何度もふうふうと吹いている。
私も向かい合わせに小さなこたつに座った。
「まて、せっかくだから」
牧之介が立ち上がる。向かい合って置いたココアを私の横に置きなおした。男二人で狭いというのに、全くこれだからお前は。
「好き者だな、お前も」
「スキモノはお前の方だ!その言葉そっくり返してやる」
隣に座って膝を投げ出し、少し顔を赤くしてココアをすする牧之介。
「布団とお前だけでも随分あったかいな……最近会えんかったから嬉しいッ」
今夜は残り物で済まそうと思っていたが今日くらいはラーメンの出前でも頼んでみるか。むやみに起こして耳元のあたたかい寝息を無駄にするのはなんだか勿体なくなってしまったのだ。(おわり)
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