おそろいの傷
お揃いの傷
「な、うわっ!」
ガリッと嫌な手触りを感じる。私の切りそびれた爪が牧之介の頬をえぐったようだ。
「いだだだッ」
深く引っ掻いてしまったのだろう。血が右のほほからつーっと垂れてきた。頬をまさぐった牧之介が手のひらに視線をやる。
「うわあ結構切れたなあ」
「す、すまん…」
どうしようもなく狼狽してしまい、保健委員を大慌てで呼んだ。
「なに、大騒ぎするほどじゃないですよ…戸部先生は綺麗好きですからね。これが泥のついた爪であればえらいこっちゃでしたが……傷?ひと月もあれば十分治りますね」
そう言ってあっさりと酒の浸した布を傷に当てておいて下さいねと渡して向こうに行ってしまったのだった。
ここ忍術学園において、教師が生徒は兎も角として、外部からの侵入者にさえ手を出してはいけないというのは暗黙の了解であり、私の信条でもある。後悔で二の句が告げない。
「なにショボくれた顔をしているッ!勝負の世界はお互い様だぞ!」
突然、牧之介がバンと背中を叩いてきた。
「私は剣豪だからな。剣術で負けた訳では無いのだ、これしきで落ち込んでたまるか!それにな、この傷…しばらく揃いだな!」
とびきりの笑顔。牧之介の温かい手が私の傷ついた眉間に触れた。(おわり)
ホーム